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岐路に立つアイドルオーディション~坂道合同オーディションが失敗に終わった理由と今後進むべき方向とは~

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坂道合同オーディションの経緯~募集告知から最終配属まで~

2018年3月10日、この夏で、あなたの人生が変わります。”というキャッチコピーで、坂道シリーズの3グループ(乃木坂46・欅坂46・けやき坂46)が初めて合同で新規メンバー募集を行う大規模オーディション”坂道合同オーディション”の開催が告知された。

”坂道合同オーディション”は、2018年6月から募集が始まり、12万9,182人というアイドルオーディションとしては史上最大級の応募者を集めることとなる。

2018年8月19日に最終審査が実施され、同日に39名の合格者が発表された。

その後、坂道3グループへの配属に向けての本格的なレッスンが始まったのだが、その過程で降って湧いたような”セレクション”という新たな審査が行われることとなる。

当惑する合格者の気持ちを置き去りにしたまま、セレクションが強行され、11月29日それに合格した21名だけが、坂道3グループに配属されることとなった。

乃木坂46の四期生に11名、欅坂46の2期生に9名、けやき坂46の三期生に1名の合計21名が正規メンバーとして配属となったが、セレクションで不合格になってしまった18名は、坂道研修生として、引き続きレッスンを受けることになったのである。

その後しばらく坂道研修生については、なんの公式発表もなかったが、およそ1年後の2019年9月7日になって日刊スポーツが、15名(18名から3名が脱落していた)の坂道研修生のプロフィールを公開する。

15名の坂道研修生は、坂道グループ合同研修生ツアーを3会場(2019年10月30日~11月21日、Zepp大阪、東京、愛知)で計6公演を実施した後、2020年2月16日、乃木坂46に5名、欅坂46に6名、日向坂46(旧けやき坂46)に3名の合計14名(1名は学業専念のため活動辞退)が追加配属されることが告知された。

2020年2月16日、坂道3グループの3人のキャプテン秋元真夏(乃木坂46)、菅井友香(欅坂46)、佐々木久美(日向坂46)がSHOWROOMの生配信にて、各グループへ配属となる坂道研修生14人を発表した。

これによって、1年8カ月の長きにわたった坂道合同オーディションはようやく完結を見たのである。

時間とコスト、応募者数など、色々な意味で坂道合同オーディションは、アイドル史上最大級のイベントであったが、12万9,182人の頂点だったはずの35名の合格者は、配属されたグループで特別な輝きを放っているとは言い難い。

応募総数の多さに比べて、合格者の質は総じて低かったというのが業界の通説になってしまったのだ。

身も蓋もない言い方になるが、坂道合同オーディションは失敗だったというのが大方の見方なのである。

この記事では、膨大な時間と手間をかけて、12万9,182人を集めた坂道合同オーディションが何故失敗してしまったのかについて考察してみた。

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坂道合同オーディションが企画された理由

アイドルに限らず、女優・モデル業界でも、オーディションを開催して新たな人材を発掘することは、過去においても、現在でも有効な手段だとされている。

どのジャンルの、どの芸能事務所にとっても、新たな人材の発掘はビジネス上の最大の課題であり、目標である。

AKB48の運営は、2005年夏のオープニングメンバーオーディションから現在(2020年2月)までの15年間で、延べ17回のオーディションと3回のドラフト会議を行ってきた。

実に、1年間に1回以上のペースで開催し続けてきたことになる。

しかし近年、目立った合格者を発掘することが出来ていない。

前田敦子(1期生)や、大島優子(三期生)、指原莉乃(五期生)に並ぶような才能を見出すことができないのだ。

坂道グループでも状況は変わらない。

乃木坂46では、2011年夏に、応募者3万8934人を集めた乃木坂46の1期生オーディションを行い、生駒里奈・白石麻衣・橋本奈々未・西野七瀬らの人気メンバーを輩出した。

それに続いて、2013年に第2回(2期生)、2016に第3回(三期生)オーディションを行ったのだが、1期生を超える人材を発掘することはできていない。

欅坂46では、状況はさらに悪く、2015年の1期生オーディションでは、2万2509名の応募者を集めたが、十分な質と量を確保することができず、わずか21名しか1期生合格者を出すことができなかった。

欅坂46の1期生オーディション応募者のレベルは、運営の期待を大きく下回ってしまったのだ。

1期生合格者で、Sランク(最上級評価)だったのは、平手友梨奈長濱ねるだけだったというのが業界の通説となっている。

欅坂46のアンダーグループという位置づけだった”ひらがなけやき坂46”の追加オーディションが、欅坂1期生のお披露目からわずか3か月足らずで告知されたのは、欅坂1期生オーディションで十分な人材が確保できなかったからだ。

この追加募集でひらがなけやき坂46には11名の合格者が配属された。

その後、欅坂46の5thシングルで、欅坂とけやき坂の合同選抜制を導入して、欅坂46メンバーの質の向上を図ろうとした今野義雄の目論見は、平手友梨奈と彼女に賛同した多くのメンバーの反対によって脆くも崩れ去ってしまう。

その結果、ひらがなけやきは欅坂46と袂を分かち、第3の坂道グループ(のちに日向坂46)として活動していく方向に舵を切ることとなる。

一方で今野が危惧する欅坂46の質の問題は何も解決されないままであった。

乃木坂46の世代交代欅坂46の増員と選抜制導入によるレベルアップ、この二つが坂道グループの喫緊の課題であり、それを一気に解決する方法として考えられたのが”坂道合同オーディション”であった。

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岐路に立たされる大型オーディション

”坂道合同オーディション”が告知された2018年春当時の、アイドルオーディションを取り巻く環境はどんな状況だったのだろうか。

アイドルに限らず、モデルや女優というジャンルでも、オーディションで新たな魅力ある人材を発掘する手法は有効だと考えられており、大手の芸能事務所は豊富な人脈とコストをかけて大規模なオーディションを行うことがこの数十年の業界の主流であった。

その代表的なものが、オスカープロモーションによる”全日本美少女コンテスト”であり、東宝と東宝芸能が主催する”東宝シンデレラオーディション”や、ホリプロが主催する”ホリプロタレントスカウトキャラバン”である。

大型オーディションの先駆けである”ホリプロタレントスカウトキャラバン”は、1976年に第1回(グランプリは榊原郁恵)が行われその後毎年開催されるようになる。
1980年代には、堀ちえみ・井森美幸らを、1990年代には深田恭子、2000年代には石原さとみらのスターを輩出するが、近年は停滞している。

2018年度からは応募からデビューまで完全非公開となり、2019年度は開催されたのかどうかも定かではない。

1984年に第1回が開催された”東宝シンデレラオーディション”では沢口靖子がグランプリに選ばれた。

その後は3~4年間隔で開催され、2000年(第5回)では長澤まさみ、2011年(第7回)では上白石萌音・萌歌姉妹を発掘したが、それ以外に目立った活躍をしている受賞者はいない。

1987年に第1回が開催された”全日本美少女コンテスト”では、米倉涼子(第6回・1992年)、上戸彩(第7回・1997年)などを輩出したが、第11回(2002年)の武井咲(たけいえみ)を最後にめぼしい人材を発掘できていない。

オーディションは”冬の時代”に入ってしまったのだ。

アイドル業界でも事情はまったく変わらない。

この記事の冒頭で触れた通り、AKB48では2005年から15年間で延べ20回ほどのオーディションを行ってきたが、初期メンバー(1期生から三期生)をしのぐメンバーを発掘することができていない。

坂道グループでも状況はまったく同じで、乃木坂46の1期生オーディションのレベルを超える成果を挙げることができないでいる。

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大規模オーディションが失敗する理由~膨大な数のオーディションと全国に張り巡らされたスカウト網~ 

多額のプロモーション費用をかけて、できるだけ多くの応募者を集め、将来有望な才能を一人でも多く集めようとするのが大規模オーディションである。

メディアでの募集告知、全国各地での説明会や予備審査の実施などに多くの人手と多額のコストがかかっている。

応募者の数が多ければ、応募者が作るピラミッドは大きくなり、その頂点は高くなる(はずだった)。

その頂点に君臨するのは、将来有望な才能を持つスターの原石である(はずだった)。

そういう論理の元で大規模なオーディションは開催されてきたのだが、近年になってこのような論理が成立しなくなってきている。

多くの応募者を集めても、その中に有望な才能がいないのである。

その理由は、大きく分けて2つある。

ひとつは、オーディションの増加と細分化である。

ネットが普及して、情報の拡散が安価でできるようになった現在、小さなイベントや事務所でも安価でオーディションを行うことができるようになり、毎日どこかで何かしらのオーディションが行われている。

個別の映像作品や、新製品のプロモーションごとに無数のオーディションが日常的に企画され実施されているのである。

そんな中で将来性のある人材が大型オーディションの網にかかる前に、掬い取られているのだ。

もう一つの理由は、スカウト網の進化によって、才能の青田刈りが進んでいることだ。

全国各地に張り巡らされたスカウト網は、日々地方の隅々の状況まで把握して、情報の上書きをしている。

その過程で、ターゲットとなる年齢層は年々低くなり、小学生にまで及んでいる。

大手事務所が主催する大型オーディションのターゲットになる前の段階で、どこかの事務所に刈り取られているのである。

その結果として、大規模オーディションでは、多数の応募者を集めることはできるが、将来有望な才能を効率良く集めることができなくなってしまったのだ。

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アイドルオーディションの今後の展望~スカウトへの原点回帰が最も有効な手法~

AKB48が、”オワコン”(コンテンツとして終わっている)と言われ始めて久しいが、握手券抱き合わせの接触商法は現在でも有効に機能している。

2019年9月19日にリリースされた最新シングル”サステナブル”は楽々とミリオンセールス(37作連続・通算38作)を達成している。

世代交代が一向に進まない乃木坂46でも、運営の危機感とは裏腹に、握手会ニューカマーである四期生の握手会の売り上げは驚異的な伸びを見せている。

一般層への認知度や人気と関係のないコアな乃木坂ファンによる四期生人気で乃木坂46のCDは売れ続け、ミリオンセールスを叩き出している。

AKB・坂道グループのビジネスは高校野球に良く似ている。

毎年のように新人(新メンバー)が現れて、新たな物語を紡いでいく。

ファンはその物語の目撃者であるばかりでなく、メンバーと共にその物語を紡いでいく共演者でもある。

メンバーの物語を応援する手段としてCDを買うのだ。

だから個々の標題シングル曲の出来の良し悪しにそれほどの関心はなく、楽曲自体にもそれほどのこだわりはない。

だからこそ同じCDを何枚も何十枚も何百枚も買うことに抵抗がないのだ。

秋元康総合プロデューサー流の接触商法恐るべしである。

AKB48の運営は、この歪(いびつ)なビジネスに慣れ切ってしまっていて、この状況に、あまり危機感を感じていないように見える。

一方で、音楽業界の雄であるSONYが母体の坂道グループの運営は、一般的な認知を伴わずに乃木坂46や欅坂46が叩き出すミリオンセールスに危機感を持っているように見える。

こんな状態は普通ではない。

いつか砂上の楼閣のように脆くも崩れ去る日が来る、という危機感である。

タレントの才能や実力と人気のバランスが悪くて居心地が悪いのだ。

何とかしてセールスの実態に見合った実力を持つアイドルグループに育て上げたいと考えているのである。

その焦りが、坂道合同オーディションに向かわせたといえるかもしれない。

だがその坂道合同オーディションは無残な失敗に終わってしまった。

これまでのオーディションの手法を続けていては、他のジャンルのスカウト網で落とされた人材ばかりをを集め続けることになると思い知らされてしまった。

特にビジュアル面でのレベルダウンが止まらない。

白石麻衣や、橋本奈々未、西野七瀬、齋藤飛鳥らに匹敵するようなビジュアルメンバーが一向に入ってこないのが現状だ。

それを乗り越えるためには、坂道グループでもスカウト部門を充実させるべきであろう。

古臭くて、手垢がついた手法であるが、スカウトこそが今最も積極的で攻撃的なオーディションであるのだ。

日本全国各地の隅々にスカウトを配置して、情報提供者を組織して彼らと連携する。

それによって日常生活に埋もれているアイドルの原石を、誰よりも早く見つけるのだ。

そうしなければ、優秀な人材は他のプロダクションにどんどん吸いあげられていくだけである。

坂道の運営は、スカウトの体制を質・量ともに強化して、将来に備える必要がある。

SONYほどの大資本ならば、そこにこそ大きなリソースを割くべきなのだ。

そこでじっくりと候補者を吟味して、家族や本人が安心して身柄を預けられる体制を作るという正攻法が、才能有るメンバーを確保する最も有効な道である。

坂道グループの運営は、巨額を投資して失敗に終った坂道合同オーディションから多くのことを学ばなければならない。

坂道研修生配属決定!乃木坂は追加5人で48人体制、欅坂は6人で29人体制、日向坂は3人で22人体制へ!
長らく放置されていた坂道研修生の14人の坂道3グループへの配属が、2月16日のSHOWROOM配信発表された。 各グループのキャプテン3人が出演して、自分のグループへの配属が決まったメンバーを紹介した。 50分足らずの配信だったが22万9千...

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