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ポツンと一軒家(テレビ朝日)が高視聴率を連発する理由

TVバラエティ

民放屈指のキラーコンテンツとなった”ポツンと一軒家”

テレビ朝日の日曜夜9時放送のトークバラエティ番組”ポツンと一軒家”(制作:朝日放送・大阪)が20%を超える高視聴率を連発し、民放屈指のキラーコンテンツとなっている。

現在NHK・民放を含めた全タイムテーブルの中で、20%越えを果たす番組は、NHKの朝ドラ”スカーレット”NHKニュース(ニュース7など)、ドラマドクターX・外科医・大門未知子(テレビ朝日、木曜21時~)とポツンと一軒家(テレビ朝日、日曜19時58分~)のみである。

この記事では、この番組がなぜこれほど視聴者の支持を集めているかの秘密に迫ってみた。

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NHK大河ドラマの独り勝ちから、”世界の果てまでイッテQ!”と”ポツンと一軒家”が参戦、日曜20時台は最激戦区に

元々”ポツンと一軒家”は、2017年1月15日から9月10日まで同じ日曜20時台で放送されていた『人生で大事なことは○○から学んだ』の一企画であった。


同番組終了後の2017年10月22日から2018年8月19日まで不定期特番”所&林修のポツンと一軒家”として8本が制作され、レギュラー化への好感触を得て、2018年10月7日より”ポツンと一軒家”としてレギュラー化されたのである。

それまで日曜夜の20時台は、NHKの大河ドラマの一人勝ち状態が長らく続いていた。

2007年2月4日、日本テレビ”世界の果てまでイッテQ!”が放送開始、安定して二桁視聴率を取るようになる。


その後、日によっては15%を超える視聴率を記録するようになり、同時間帯の勢力図に変化が現れる。

そして2012年のNHK大河ドラマ平清盛(松山ケンイチ主演)以降視聴率が振るわなくなり、企画自体が迷走し始めてしまう

相対的に”世界の果てまでイッテQ!”が浮上することとなり、視聴率が逆転することもしばしば起こるようになっていく。

そんな中で2018年10月にレギュラー番組としてスタートした”ポツンと一軒家”は、初回で14.0%の高視聴率を記録、以来右肩上がりで上昇するのである。

そしてついに2019年6月9日放送回で、20.3%と初めて20%越えを果たす。

”ポツンと一軒家”がついにNHKも含めた同時間帯のトップに躍り出たのだ。

”ポツンと一軒家”が20%を超えるまで

”ポツンと一軒家”の大躍進の背景には、NHK大河ドラマ企画の迷走のほかに、もうひとつ大きな要因がある。

それは、世間周知の、”世界の果てまでイッテQ!”世界の祭り企画の”やらせ問題”である。

”世界の果てまでイッテQ!”は高視聴率を連発し、晴れてヒット番組の仲間入りを果たしたものの、海外取材番組の宿命として、ネタが枯渇するリスクを常に抱えていた。

常にネタ探しをして、有力な現地コーディネーターを探し、そのネタが番組企画として成立するかどうかを見極め、それでようやく具体的なロケの交渉に入れるのである。

だから一つの企画が当たれば、それをとことんやり尽くすのが常道である。

”世界の祭り”企画が当たれば、その手法を他の国や地域で使おうとするのは極く自然な成り行きであった。


世界中に”お祭り”そのものはたくさんあるのだが、番組企画として成立するようなお祭りはそう多くはない。

さらに宮川大輔が参加できるコンテストがそうそう都合よくころがっているわけでもないのだ。

すぐにお祭り企画は”ネタ枯れ”の危機に瀕してしまう。

ネタが尽きれば、他の新たな企画を開発しなければならないのだが、世界の祭りに匹敵するようなネタはそう簡単にはみつからない。

放送局のプロデューサーは、下請けの制作プロダクションの尻を叩き、新たな企画を出せ!と迫るが、それは口で言うほど簡単ではない。

追い詰められた制作プロダクションは、悪いと知りつつ禁断の果実である”やらせ”に手を出してしまう。

一度ヒット企画や人気番組として注目を浴び、賞賛を得た番組が。ネタ探しで追い込まれ、迷走した挙句に、”やらせ”に手を染めてしまう事例は後を絶たない。

”世界の果てまでイッテQ!”の世界の祭り企画も。テンプレートのように同じ経緯を辿っている。

”ポツンと一軒家”も海外・国内の違いはあれど、同じく取材番組である。

次章では、”ポツンと一軒家”にも同じリスクはないのか?

”ポツンと一軒家”が成功した理由と”世界の果てまでイッテQ!”との違いについて考えてみたい。

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ポツンと一軒家が成功した一番の理由は、スタッフの謙虚さだ

ポツンと一軒家の企画の発端は、航空写真地図を眺めていたスタッフが、深い山の中にまさにポツンと存在する一軒家を見つけて、そこに住む人がなぜそこに住んでいるのか、その暮らしぶりはどんなものなのかに思いをはせたのが始まりだ。

NHKのチコちゃんに叱られるが、5歳児の素朴な疑問から始まったのと同じ発想である。

NHKは、豊富な資金力と人材・人脈を駆使して、その素朴な疑問にチコちゃんという先進テクノロジーを駆使した壮大な仕掛けを投じて、一大エンターテインメントバラエティ番組を作りあげた。

資金や時間に限りがある民放ではできないビッグプロジェクトである。

一方で”世界の果てまでイッテQ!”は、少ない予算をやりくりして、精一杯背伸びして海外取材を続けて、いくつかの鉱脈(ヒット企画)を掘り当てた。

それは賞賛に値することだ。

ところが、次第にネタが尽きてきて、ついに”やらせ”に踏み込んでしまった。

そうしなければ”世界の祭り”に未来はないと思い詰めた結果である。

”ポツンと一軒家”は、まさにそのタイトルが番組の内容を過不足なく表しているように、番組内容に奇をてらったところや、ビックリするような仕掛けはない。

深い山の中の一軒家を訪ねて、そこでの暮らしとそこに住む人々の想いを紹介をするだけの番組である。

大河ドラマ”いだてん”もつまらないし、”世界の果てまでイッテQ!”のやらせにも愛想が尽きた、それなら時間潰しに”ポツンと一軒家”なるゆるそうな番組でも見てやろう。

おそらくそんな動機でこの番組を見始めたひとが多いと思われる。

ところが、見始めるとこれが意外に面白い。

1枚の航空写真をもとに、地味で実直そうなスタッフが、GPSを駆使するでもなく、地元の集落に行って、偶々会えた住民からの情報を元に、自ら四輪駆動車を駆って、山道を登っていく。

勿論舗装などされていない狭い山道を、崖下に転落しそうな恐怖に襲われながらゆっくりと登った先に、ポツンと一軒家が佇んでいる。

そこの住人は例外なく60代以上の高齢者だ。

子供たちが成人して二人だけ残ったご夫婦もいれば、連れ合いに先立たれた単身の方もいる。

麓の暮らしより明らかに不便に見える山の中での暮らし。

ポツンと一軒家で暮す住民には、それぞれそこで暮すことを決める、譲れない理由を持っていることがわかってくる。

スタッフが、その暮らしぶりや、そこで暮すことになった経緯などを、淡々と尋ねていく。

そこには、私たちの想像をはるかに超えた波乱万丈の人生や、慈愛に満ちた豊かな人生があり、そこに住み続けることへの強い想いがあることがわかってくるのである。

かつて家族で暮らした幸せな記憶や、そこで生涯を終えた父母や兄弟などが眠る土地を守っていくという遺されたものの責務、そういうものに生涯を捧げる市井のひとの、生活の不便さや損得を超越した生きかたが現れてくるのだ。

そのリアルな現実だけが持つ説得力が、私たちの胸に深く刺さる。

一方で”世界の果てまでイッテQ!”の”世界の祭り”企画には明確な狙いがある。

日本とは違う風習で行われる”祭り”の物珍しさと”驚き”、そしてそこには必ずコンテスト(競争)が付随していなけれならない。

それにタレントの宮川大輔が参加して、一定の成績を挙げて、現地の人々の称賛を浴びる。

そういうフォーマットができあがっていて、予定調和の結末が視聴者に期待されていた。

ポツンと一軒家にも大雑把なフォーマットはあるが、世界の祭りよりはずっと自由度が高い。

取材対象まで行き着くまでの過程で、様々な住民に出会い、その協力を得なければならないのだが、毎回その状況は違っている。

経費をふんだんにはかけられない中で、最少人数で取材を続けるクルーは、毎回現場で臨機応変に対応していかなければならない。

スタッフの予想はかなりの頻度で裏切られ、それが結果として番組に新しい表情を与えているのである。

目指す一軒家にたどり着くと、そこには毎回違った趣の住民がいる。

そして住民の一人一人が、深い山の中で不便を顧みず住み続けるそれぞれの理由を持っている。

山中の一軒家に住む住民の、リアルな人生はスタッフや視聴者の予想を超えるもので、その重さが見るものを感動させるのだ。

予定調和によって安定の感動を生む”世界の果てまでイッテQ!”、予定調和を裏切って感動を呼ぶ”ポツンと一軒家”

両番組は好対照をなしている。

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ポツンと一軒家が成功した理由で一番大きいのは、取材クルーが謙虚なことだ。

テレビ番組の取材ならば、一般人は答えるのが当たり前。

ワイドショーやバラエティ番組の多くのスタッフはそう考えているように見える。

農作業を勝手に止めたり、道行く人を無差別に呼び止めてインタビューをしようとすることになんの躊躇もない。

相手の都合や、迷惑を無視して番組の都合を押し付ける。

そんなシーンがあたりまえのTV番組で、ポツンと一軒家のスタッフの取材クルーは、とても控えめで謙虚である。

麓の住民に道を尋ねる時からそうなのだ。

全国にこの番組が知られるようになった今でも、その姿勢は変わっていない。

田舎の人は総じて、親切で世話焼きだが、ポツンと一軒家のクルーの地味さや謙虚さがそれと相まって番組を温いものにしている。

日曜の夜、ホッとしたい人々にとって、まさにふさわしい番組なのである。

日本の人口の多くが高齢者となり、人生100年の声も聞かれる状況で、リタイアした高齢者は、第2の人生の目標や、人生の後半の過ごし方を探している。

そういう視聴者にとって、この番組が紹介するポツンと一軒家に住む人々の暮らしぶりは、とても示唆に富んでいる。

視聴者に、明日の生き方を考えさせる番組になっているのだ。

これからも、番組スタッフが手間をかけて、地道に取材を続ける限り、ポツンと一軒家の躍進は続くだろう。

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