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アイドルバラエティのMCにお笑い芸人が起用され続ける理由・その1~AKBINGOの功績、指原莉乃と土田晃之・後藤輝基~

アイドル

これまでアイドルバラエティ番組のMCとして多くのお笑い芸人が起用されてきた。

秋元康総合プロデューサー率いるAKB・坂道グループでは特にその傾向が顕著だ。

AKBINGO!(2008年10月2日~2019年9月25日)ではバッドボーイズ(佐田正樹・大溝清人)、有吉AKB共和国では有吉弘行、乃木坂ってどこ?ではバナナマンなど枚挙に暇(いとま)が無い。

昨今テレビ業界、特にバラエティ番組の制作担当者や放送作家の間で、躍進著しい日向坂46とオードリーが共演する”日向坂で会いましょう”でのアイドル番組の枠を飛び越えた、純粋にバラエティ番組としての際立った面白さが話題になっている。

一方では長年続いている番組でありながら、まるでお葬式のようだと揶揄されることも多い”欅って書けない?”というアイドルにとってもMCを努める御笑い芸人の双方にとって”不幸な”番組もある。

ここでは、アイドルバラエティ番組に、お笑い芸人が起用され続ける理由を考察しながら、代表的なアイドルバラエティ番組であるAKBINGO乃木坂工事中日向坂で会いましょうなどを取り上げて、アイドルグループとお笑い芸人との関係性について考えてみた。
本稿は全3回のうちの第1回である。

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アイドルバラエティのMCにお笑い芸人が起用され続ける理由

女性アイドルのグループ名を冠したバラエティ番組は、アイドルグループのプロモ-ション戦略の大きな柱の一つであることは論を待たない。

デビュー間もないアイドルの卵たちが、名前やキャラクター・歌声やダンススキルなどを視聴者に知ってもらい、できるだけ多くのファンを獲得するための舞台となるのがアイドルバラエティ番組なのだ。

そして、そういった番組でMCに起用されるのは多くの場合、いわゆるTVタレントでも、局アナでもなくお笑い芸人である。

その理由は一体どこにあるのだろうか?

デビュー間もないアイドルの卵たちは、知名度もなく、メディアへの露出もライブの経験もまだ少なく、言ってみれば”素人同然”である。

畢竟、アイドルバラエティ番組のMCには、素人同然のアイドルの卵たちをを臨機応変に操りながら、彼女たちの素顔や一人一人の個性を引き出すという難しい役割りが求められる。

そしてアイドル番組の制作スタッフは、様々な企画を用意して、彼女たちの魅力を視聴者に伝えようとするのだ。

そのプロセスの中でアイドルバラエティ番組のMCたちは、少女たちに過酷な試練を与えたり、辛い罰ゲームを強いたりする場面に多く遭遇することになる。

今のご時世でいえば、ほとんどパワハラと言われても仕方がない試練や罰ゲームが行われる世界、それがアイドルバラエティ番組である。

絶叫系アトラクションやお化け屋敷、バンジージャンプなどにアイドルを追い込み、アイドルが泣いたり叫んだりする様子を見せるのは、アイドルバラエティの常道である。

罰ゲームとしての顔面パイ投げや、ゲテモノ料理、ビリビリボールペンなども定番の企画である。

もし放送局のアナウンサーが、そんなパワハラまがいの企画を少女たちに強いれば、たちまち抗議の声が上がり、SNSは炎上してしまう。

それをバラエティ番組のエンターテインメントとしてギリギリ成立させるのがお笑い芸人の腕の見せ所なのだ。

お笑い芸人には、そのキャリアの中で必ず通ってくる道がある。

それは商店街や人が集まる場所でのロケだ。

そこでお笑い芸人たちは、一般の素人たちを相手に、インタビューを成立させ、笑いをとっていかなければならない。

多くのお笑い芸人たちはそういったロケで素人イジリのスキルを学んでいく。

その素人イジリのスキルがまさに、アイドルバラエティのMCとして活かされるのである。

素人同然のアイドルの卵たちが過酷な試練や罰ゲームの恐怖で、泣いたり叫んだり、時には達成感で満面の笑みを浮かべ、それが視聴者に感動を与える、そんなシーンを自在に演出するスキルが、お笑い芸人には求められるのだ。

お笑い芸人とアイドルの親和性の高さ、相性の良さはそんなところに起因している。

そして、それこそがアイドルバラエティ番組のMCにお笑い芸人が起用される最大の理由なのだ。

もうひとつの理由は極めて現実的なものだ。

1回の収録で4本撮りも珍しくないアイドルバラエティ番組。

少ない製作費の中で、ギャラを低く抑えられ、過酷なスケジュールに対応してくれるのはお笑い芸人くらいしかいないということである。

売れない時代にもっと過酷な営業に耐えてきたお笑い芸人にとって、それらは取り立てて悪条件ということもない。

いずれにしてもアイドル番組のMCにふさわしい人材は、お笑い芸人のほかにはない。

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アイドルバラエティ番組の基本を作ったAKBINGO

AKBINGO!(エーケービンゴ)は、日本テレビとその系列局などで放送されていたバラエティ番組で、2008年10月2日(10月1日深夜)から2019年9月25日(9月24日深夜)まで約11年間にわたって放送された異例の長寿番組である。

この番組のMCを長らく努めたのは福岡出身で暴走族あがりを公言していたお笑いユニット”バッドボーイズ”だ。


その強面の風貌は、AKB48メンバーの可愛いらしさを際立たせ、番組を盛り上げる大きな要素の一つとなった。

お笑い芸人としては、もうひとつ華々しくブレークできなかったバッドボーイズだったが、同じようにブレーク直前のAKB48とは似通った境遇であり、お互いの距離を縮めやすいというメリットもあった。

AKBNIGOの最大の功績は、後にアイドルバラエティ番組の定番となる企画を数多く生み出したことだ。

★ショージキ将棋
体に接続された嘘発見器(キーラー・ポリグラフ)を使ってメンバー間の本音を暴く企画
★ムチャぶりドッジボール
負けると罰ゲームとして過酷なムチャぶりが待っている。
★私服ファッションチェック
アイドルの私服事情を暴く定番企画
★ものボケ
★おなら空気砲
★ゲテモノ息相撲
など

そして数多くの罰ゲームの定番も生まれた。
顔面クリーム砲・ゲテモノ食い・わさびロシアンルーレット・バンジージャンプ

これらの企画や罰ゲームは、他のアイドルグループのバラエティ番組の中でも、メンバーの素顔を引き出す企画や、表題シングルのヒット祈願企画として現在も行われている。

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お笑い芸人とアイドルグループの幸福な出会い

有吉AKB共和国(2010年3月29日~2016年3月28日)~Win-Winの関係だったAKB48と有吉弘行~


”猿岩石として一世を風靡した後に天狗となり、地獄を見た”(本人談)有吉弘行が毒舌芸人として再ブレークをしたころに、有吉弘行にとっての初の冠番組として始まった番組が有吉AKB共和国である。

AKB48にとってはTBSでの初めてのレギュラー番組であった。

司会は有吉弘行でそのアシスタントをAKB48の小嶋陽菜が務めた。

当初は他に週替わりでAKB48の正規メンバーと研究生数名(9期生から1五期生まで)が出演していた。

番組のコンセプトは「研究生を育てる番組」。

有吉が「有吉AKB共和国」の大統領・小嶋陽菜がファーストレディという設定で、メンバー達が有吉を喜ばせるための企画をプレゼンする。

その内容で有吉を満足させることができなかった場合には何らかの罰ゲームがプレゼンターに下される。

有吉AKB共和国は、正規メンバーではなく、まだ知名度が低い研究生に重点を置いている点で他のAKB48冠番組とは大きく異なっていた。

番組開始当時は、ロケ企画がメインで、グルメや観光施設、生活用品などを紹介する情報系企画が中心になっていたが、後になって、有吉AKBラジオ局として、出演する研究生たちにまつわる噂や彼女たちの悩みを有吉が発表し、その真偽を確かめたり、それらを検証したり解決したりするというトークバラエティにシフトしていく。

有吉の毒舌は、AKB48メンバーイジリにも遺憾なく発揮されたが、有吉の絶妙なさじ加減で、メンバーが萎縮することはなかった。

研究生が地上波テレビに出演できる機会はこの番組以外にはなく、彼女たちにとってはここに出演して有吉にイジッってもらうことが、自身の知名度を上げることにつながる大きなチャンスであった。

それまでほとんど無名だったメンバーが、有吉の毒舌でキャラづけされて、視聴者に拡散していく。

伊豆田莉奈(現タイ・チェンマイのCGM48のメンバー兼総支配人)の”河童のコスプレ”や、西野未姫(卒業)の”温野菜大好きキャラ”など、有吉が面白がったことでファン層を広げたメンバーも多い。

有吉にとってはじめての冠番組であり、タレントとしてのステイタスが一段あがることにつながったという意味で、両者はウィン・ウィンの関係であったが、有吉の人気が爆発して、スケジュールの調整が難しくなったことで、やむなく終了となった。

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指原莉乃と土田晃之~さしこのくせに~


さしこのくせに~この番組はAKBとは全く関係ありません~”は、2011年1月から9月まで、TBSと大分放送(指原莉乃の故郷)で放送されたAKB48グループ初の個人冠番組である。

2007年AKB48の五期生としてグループに加入した指原莉乃は、子供の頃からの筋金入りのアイドル好きで、故郷大分時代には、全身に好きなアイドルの写真を貼り付けて九州各地のコンサートや握手会の会場に出没する有名なオタクであった。

AKB48のメンバーとしての指原は特にビジュアルに恵まれているわけでもなく、ダンスはそこそこ、歌は本人が認めるほどの音痴で、アイドルとしてのポテンシャルはお世辞にも高いとは言えなかった。

しかし、一方で自分自身を客観視する能力にたけ、優れた自己プロデュース能力を持つ指原は、すぐに秋元康総合プロデューサーの目に留まる。

グループの中で王道アイドルであった1期生の前田敦子や大島優子、その後継者と目されていたまゆゆこと渡辺麻友(三期生)らとは明らかに違ったタイプのメンバーであった。

指原の才能に着目した秋元康総合プロデューサーは、2010年の時点で、”(指原は)アイドルよりも放送作家の方が向いている。”と本人に伝えている。

自らのアイドルとしてのポテンシャルが十分に足りているとは思っていなかった指原は、自虐的でネガティブな発言を繰り返し、”ヘタレ”で”ビビり”なキャラとしてファンに認知されていく。

一方で、指原は場の空気を誰よりも早く読み取り、その場の会話や進行を円滑に進めることができる才能を持っていた。

指原は、他のどのメンバーよりもアイドルオタクの心理を理解していて、ファンの目線から考えて自分を演出し、そして周囲のメンバーの個性を引き出すことができたのである。

それが、時にはユニークなブログ投稿やテレビでのコメントとして、時には劇場で他のメンバーをいじるMCの場面で発揮されていた。

そんな指原にアイドルの新しい可能性を感じた秋元康総合プロデューサーと運営は、指原を早々と太田プロに移籍させ、同じ太田プロの人気芸人であった土田晃之と組ませて、指原莉乃の個人冠バラエティ番組”さしこのくせに”を企画する。

2010年の大ブレークを経て、国民的アイドルグループの名を欲しいままにしている感があったAKB48。

そのメンバーの中で、最初に単独で冠番組を持つのがよもや“さしこ”(指原の愛称)になろうとは……、どんなマニアックなファンでも、予想しなかったことであった。

さしこのくせにの番組コンセプトは「ヘタレキャラ」の指原が、立派なアイドルになるために様々な試練に立ち向かう「さしこ育成バラエティ」であった。

この番組の立ち上げに際して土田は、次のように語っている。
(指原と)一緒に番組をやっていて気付いたのは、より追い込まなきゃ(指原の良さが)生きないなってことなんですよね。
ぬるい追い込みだとコメントが適当に聞こえるから。
計算内でのリアクションじゃダメだな、と

指原自身も
雑にしてください。優しくされるのに慣れていないんです。AKB48として扱われると……。AKBであってAKBではないんです、私。
とNG無しでの覚悟を語っている。

コメント通りに、土田はアイドルに対するものとは思えない強めのイジリを指原に繰り返し、さしもの指原も泣きそうになる場面が多く見られた。

しかし、土田の追い込みに必死に食らいつく中で、指原のキャラクターは視聴者の共感を呼び、そのプロセスで指原はバラエティ番組での振舞い方というものを学んでいくのである。

この番組で共演したことで、土田は指原にとってバラエティ番組での師匠となり、恩人となった。

ただ、土田が指原に用いたこの手法は、メンタルが強い指原だから通用したのである。

他のアイドルたちに同じ方法が通用すると考えるのは間違いだ。

坂道グループの運営は、それを誤解して土田晃之のアイドルイジリの能力を過大に評価してしまい、その結果”欅って書けない?”での惨状を招くのである。

2012年6月、指原は第4回AKB選抜総選挙で4位に躍進するが、その数日後に文春砲に見舞われてしまう。

心が折れた指原は、グループを卒業することを覚悟したが、秋元康総合プロデューサーから、”AKBに恩返ししてから卒業しなさい”と諭され、当時発足して間もなかったHKT48への移籍を命じられ、九州に戻っている。

そこでメンバー兼劇場支配人として年の離れたメンバーの育成に尽力し、指原自身もスキャンダルを乗り超えて、選抜総選挙3連覇という前代未聞の快挙を達成する。

今や指原莉乃は、テレビ業界を代表するタレントにまで成長し、師匠である土田晃之をはるか後方に置き去りにしている。

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指原莉乃と後藤輝基~後藤さんは私を一番面白くしてくれる人~


HKT48のおでかけ!(2013年1月25日から2017年6月29日)は、TBS制作で、関東および鹿児島・福岡・大分地区(後に静岡・石川も参加)で放送されたHKT48の地元ファン獲得バラエティ番組である。

MCはHKT48メンバー兼劇場支配人である指原莉乃が担当し、番組の見届け人としてフットボールアワーの後藤輝基が起用された。

地元ファン獲得のためにHKT48メンバーが地元の各所にロケに”おでかけ”して、様々な体験をする中で、その素顔を視聴者に紹介するという番組である。

スタジオでそのVTRを見ながら後藤が抱いた疑問に指原が答えて、ロケに参加したメンバーの中から毎回一人の”おでかけMVP”を後藤が選ぶというのが基本のフォーマットであった。

アイドルグループの地上波の冠番組で、そのメンバーの一人がメインMCを努めるというのは空前にして絶後の出来事である。

指原莉乃だからこそ実現できたことだ。

見届け人に起用された後藤輝基はアイドル好きでもなく、HKT48のメンバーのことなどまったく知らない状態で番組に参加した。

つまり後藤は一般視聴者と同じ目線に立っていたわけである。

そして番組の放送が続くのに従って、HKTメンバーに愛着が湧き、HKT48を応援し始めるという流れが作られていく。

指原が後藤との絶妙な距離感を保ちながら、実に伸び伸びと、楽しそうに番組を進行させていく中で、後藤と指原の双方の好感度も上がっていくというまさにWin-Winの関係が生れていく。

指原は後藤について「(私のことを)1番面白くしてくれる人」とあるインタビューで語っている。

このコンビの安定感に着目していた日本テレビは、2016年2月、人気上昇中であったトークバラエティ番組”徳井と後藤と麗しのSHELLYが今夜くらべてみました”で、SHELLYが第1子出産のための産休に入るのを機に、指原をその後任に指名する。

指原はその期待に見事に応え、期待以上の結果を残した。

SHELLYが産休から復帰した後も、指原・SHELLY・後藤・徳井の4人MCという豪華な布陣で、現在も番組は継続中である。(2019年10月から徳井義実は、税金未納という前代未聞の不祥事で番組出演を自粛中)

指原莉乃という従来のアイドルの枠に収まらない逸材が、土田晃之や後藤輝基という人気お笑い芸人とのコラボの中でその才能を開花させたことは特筆すべき事実である。

アイドルとお笑い芸人は実に相性が良いのだ。

アイドルバラエティのMCにお笑い芸人が起用され続ける理由・その2に続く

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